自治体マーケティングとは。BtoBとの違いやプロセスを徹底解説

「民間のセールスと勝手が違う」
自治体ビジネスを検討されている企業さまは、上記のような悩みを抱えているのではないでしょうか。
自治体ビジネスに参入したいものの、民間のビジネスと勝手や反応が異なる、そもそもどう活動を進めたら分からないというご相談が非常に多いです。
またターゲットとする自治体をどう選ぶのか、自社のサービスや商品が受け入れられるのかどうか……などの不安を抱えていることも。
基本的に、自治体ビジネスも通常のビジネスと考えることは同じです。
ターゲットを誰にするのか、事業ドメインをどこに置くのか、他社との差別化は何があるのかなど、基本的には自治体も変わりません。
そして自治体ビジネス成功のためには、マーケティングを理解しておくと、アプローチの視点なども考えやすくなります。
そこで今回は、自治体へ営業する前に知っておきたい自治体マーケティングやBtoBとの違い、プロセスについて解説します。
目次
自治体マーケティングは特殊?定義やBtoBとの違いを知ろう
そもそも「マーケティング」の目的とは何でしょうか。
ドラッカーは著書の『マネジメント』の中で、以下のように述べています。
「マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ」
出典:ピーター・ドラッカー著・上田 惇生訳(2001)『マネジメント』ダイヤモンド社
また、アメリカマーケティング協会(AMA)の定義を訳すと、以下のようになります。
「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値ある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」
出典:アメリカマーケティング協会「Definitions of Marketing」
では「自治体マーケティング」はどう定義できるのか、次で見ていきましょう。
自治体マーケティングとは?
自治体マーケティングとは、「地方自治体に対して課題解決に価値のある製品・サービスを提案し、交換するための一連の活動とプロセス」を定義します。
ポイントは、「課題解決」。
自治体は、その地域の課題を解決するために対価を支払いますよね。
地域住民からお預かりした税金を、住民のニーズや地域課題のために活用するのです。
つまり民間企業は、「その課題を解決するためにいかに価値提供をできるのか」が重要となり、その対価を交換(受注)するためにどう進めていくのか、そのプロセスを自治体マーケティングと呼びます。
自治体マーケティングとBtoC・BtoBマーケティングの違い
次に自治体マーケティングと、BtoCやBtoBマーケティングにおける4つの違いを以下の表にまとめてみました。
違い | BtoC | BtoB | BtoLG |
1.判断基準 | 個人の嗜好・感情 | 法人(企業)としてのニーズ | 法人(地方公共団体)としてのニーズ |
2.意思決定権者 | 購買する本人 | 複数の関係者による合意形成のうえ、部門トップが決定 | 部門トップ、複数の関係者による合意形成決定、調達プロセス |
3.購入サイクル | 本人次第で短期 | 比較的に長期サイクル | 年度ごとの長期サイクル |
4.価格 | 個人が購入できる範囲 | 高機能・専門的であり、高額 | 高機能・専門的であり、高額 |
1つ目は「判断基準」。
BtoCは相手が個人なので、個人の嗜好や感情、気分などで判断します。
対してBtoBや自治体マーケティング(BtoLG)は、企業や自治体としてのニーズで判断します。
ただし自治体のニーズはいわゆる地域住民のニーズとなるので、その点は注意しましょう。
2つ目は「意思決定権者」。
BtoBとの決定的な違いは、「調達」というプロセスがあること。
誰もが納得するフェアな競い合いで決めることが求められます。
3つ目が「購入サイクル」。
BtoCは短期が多いですが、BtoBは長期に渡る傾向にあり、場合によっては2~3年かかるケースもあるでしょう。
自治体マーケティングも同様ですが、特徴的なのは年度毎のサイクルで動いていることです。
4つ目が「価格」。
価格は個人と比べると、高額になります。
自治体は必要な事業や施策を民間企業にアウトソーシングするイメージなので、より高額になる傾向です。
【自治体マーケティングの基礎】考え方とプロセス
続いて、その自治体マーケティングの前提となる考え方やプロセスについて解説しますね。
自治体マーケティングの前提となる考え方
前提となる考え方ですが、まず以下からスタートします。
- お客さま
- 提供価値
上記が間違っていると自治体ビジネスの失敗になることもあるので、まずはこの2点を押さえましょう。
A.お客さま
思い浮かべた方も多いかと思いますが、自治体のお客さまは「地域住民」であり、自治体そのものでも首長や議員でもありません。
面前でアプローチする自治体の職員は、住民から預かった税金を効果的に使う事務局のようなもの。
企業が提案するソリューションがもたらす「住民への価値」が重要となります。
B.提供価値
次に「提供価値」とは、「製品やサービスの提供によってもたらされる課題の解決」です。
あくまで重要なのは「課題解決」のため、自社の商品やサービスを売りたい気持ちは住民に関係ありません。
価値とは、地域住民が困っていることやニーズに対して、その商品がどう役に立つのか。
つまりどんなに技術や高性能だとしても、企業側の都合でしかありません。
地域の課題解決と自社の商品やサービスがどう結びつくか、それが提供価値です。
大前提として、ポイントは「地域住民の課題解決」であることをしっかりと押さえましょう。
自治体マーケティングのプロセス
自治体に訪問する前に必要な自治体マーケティングにおいて、必ず実施すべきプロセスが「事業環境分析」と「STP」です。
「事業環境分析」とは、各々の企業の外部と内部の取り巻く環境を分析すること。
主に以下の2つに分けることができます。
- PEST分析(外部環境分析):自社や業界を取り巻く外部の状況
- 3C分析(内部環境分析):事業領域の内部を分析すること
外部と内部を分析し、どこに自社の可能性があるのかを見極めた上で、切り口を設定して区分けします。
「事業環境分析」は後半でもう少し触れていきますので、気になる方は後ほどご確認ください。
自治体マーケティングに取り組むメリット
では、自治体マーケティングに取り組むメリット3つを見ていきましょう。
メリット1.限られたリソースの効果を最大化できる
予算や人員などが少ない場合、効率的・戦略的に活動できるうえに、生み出す価値を最大化することが可能です。
メリット2.調達の局面で受注率を高めることができる
事業環境分析で収集したデータなどは、その後の入札やプロポーザルで勝つために有効な情報になります。
これは非常に大きなメリットといえるでしょう。
メリット3.対民間ビジネスへのプラスの効果が期待できる
自治体マーケティングは地域住民と向き合い、提案力を高めることが欠かせません。
お客さまのニーズや課題にどれだけ寄り添えるか、この提案力を鍛えると民間のビジネスでも活用できることが多いです。
自治体マーケティングの進め方
それでは、自治体マーケティングの進め方を具体的に見ていきましょう。
ステップ1. 外部の環境を分析しよう
まずは、先ほど少し紹介した外部環境分析です。
分析するカテゴリーの頭文字を取って、PEST分析と呼んでいます。
- Political(政治)
- Economical(経済)
- Social(社会)
- Technological(技術)
Political (政治)
Politicalは自治体ビジネスの動向を大きく左右します。
地方自治体は国の政策に沿って自分の自治体の政策を決めますよね。
つまり、自治体も国の政策には非常に敏感であり、国の政策や方向性に合わせた提案は通りやすいのです。
政治に関する情報は、各府省の公式ウェブサイトなどで集めることができますので、事前に確認してみてください。
Economical (経済)
自治体ビジネスは地域経済が財源に反映されるため、経済についても調べておく必要はあります。
日銀や金融庁のウェブサイトにある、業況判断指数(DI)や金融レポートなどでチェックしましょう。
Social(社会)
社会も政治と合わせて重要であり、ほぼすべての自治体公式ホームページに各種調査や白書などを掲載しています。
その自治体の現状を知るには非常に効果的です。
Technological(技術)
最新の技術レポートや、皆さんの業界団体から入ってくる最新の技術動向などもチェックしておきましょう。
特に、政治と社会は自治体の行政運営や地域課題に直結しているので、しっかりと分析することをおすすめします。
ステップ2.内部の環境の分析をしよう
次は内部環境分析(3C分析)で、これは以下3つの頭文字を取ったものです。
- Customer(自治体)
- Competitor(競合他社)
- Company(自社)
Customer(自治体)
まずは、ターゲットとなる自治体の人口規模を調べましょう。
自治体は人口規模によって、取り組める内容が異なるからです。
例えば政令指定都市といわれる人口40万人以上の自治体などは、人口の少ない自治体よりも大きな権限を持っているうえに、予算も大きいことが多いです。
そのぶん取り組みの幅も広くなるのです。
また総合計画や個別計画など、自治体ごとの中長期経営計画にあたるものも確認しておきましょう。
自治体のニーズなどが分かり、提案に役立ちます。
基本的には自治体の公式ウェブサイトに掲載されているので、確認してみてください。
Competitor(競合他社)
自治体のホームページに、同様案件を落札した企業が載っていることもあります。
また情報開示請求を利用して、他社が提出した資料を確認できることもあるので、提案に有効です。
Company(自社)
自治体ビジネスにおいて重要なのは自社の強みや弱みを洗い出し、「自社でなければならない理由」を導き出すこと。
そのため競合他社の強みや弱みも合わせて、自社を採用すべき理由しっかりと考えましょう。
自社の強みやポイントを見出せれば、勝率アップにもつながります。
ステップ3.ターゲットを絞ろう
事業環境分析ができたら、次はアプローチする自治体を絞っていきましょう。
仕分ける切り口(変数)は大きく分けて、以下の4つです。
地理的変数
行政区域の動向、都市部か山間部など地域特性上の課題など
人口動態変数
自治体の人口規模や年齢・家族構成・業種・所得などに伴う課題など
心理的変数
住民の県民性や行動性向など
行動変数
首長の政策や総合計画の方向性など
ポイントは、「自社の業務分野」とこれら「変数」と「地域課題」を組み合わせて絞ること。
そのうえで有効な市場規模か、成長性があるか、強力なライバルとなりそうな競合他社がいないかなどを基準としてターゲッティングしていくと、より効果的です。
またここまで進んだあと実際に自治体へ提案しますが、その場合「プロポーザル」や「入札」などを求められることが多いです。
詳しくは「プロポーザルと入札の違いは?コンペとの違いや特徴についても解説」をご一読ください。
まとめ
今回は、自治体ビジネスの成功に必要な自治体マーケティングについて解説しました。
自治体マーケティングは基本的にはBtoBマーケティングと同様ですが、自社の商品やサービスの売り込みではなかなか成功しません。
以下2つを押さえることが、成功の近道です。
- ターゲットとなる自治体における地域住民の課題解決に寄り添えるか
- 自治体へアプローチする前の事前準備・リサーチをしっかりと実施できるか