地方自治体の予算について、わかりやすく解説!

目次
はじめに:予算がわかれば自治体がわかる
「予算」は、自治体ビジネスを展開し、自治体側と交渉する上で、とても重要な言葉です。
「予算」は、自治体にとって、どのような意味があるのでしょうか?
実は「予算作り」と「その予算を使うこと」こそ、自治体の仕事なのです。
自治体がどこにお金をかけようとしているのか、自治体が何を目指しているのかが全てこの「予算」にはっきりと現れます。
予算の内容や、予算の名前は、複雑でわかりにくいところがあります。
しかし、一度理解すると官公庁の本音がわかり、自治体との交渉をスムーズに運ぶことができます。
ここでは自治体の予算について、わかりやすく解説します。
予算の概要
企業と官公庁で違う視点
1.目的の違い
予算を作る目的は何でしょう?
企業 | コストを見積もるため |
自治体 | 富の再配分の内容をはっきりさせるため |
企業は、常に新たな視点で世界を眺め、新たな価値を見つけ利益を出すプロ集団です。
最大の利益を上げるために、コストはいくらか?を見るために予算でコストを見積もります。
一方で、国や自治体といった官公庁は次の目的のために仕事をしています。
自治体の仕事 |
皆で生き残るための仕事 人々が生き残り、次世代以降も末長く存続できるようにするため(住民の福祉の増進 地方自治法1条の2)誰もが人間らしく生きるための仕事 人々が人間らしく生きることができる状態にするため(日本国憲法 世界人権宣言)。この「人間」の範囲は、昔は肌の色、性別、生まれながらの身分、財産の大さ、などにより限られており多くの人々が人間扱いされていませんでした。 その反省をふまえて、現代は「生まれながらに誰もが人間」として扱われます。 もっと豊かになるための仕事 |
人類は、家族や親族や仲間たちとチームを作りチームで進化してきました。
器用な手先と将来を見通す頭脳を活かし、群れで助け合い、厳しい環境を乗り越えてきました。
しかし大昔であれば、家族親族友人単位だったチームも、文明化・工業化し人口が増加した現代では、億単位のチームになります。
ともにサバイバルし、ともに豊かになるチームもかつてないほど大規模化しました。
運営するための細かな法律などのルールが必要になり、官公庁という組織を作り運営していくことになりました。
この官公庁の一つが自治体です。
(まとめ)自治体予算には、「皆で生き残るため」「皆で豊かになるため」にどんな項目があり、
いくらぐらい何に富を再配分するかについて書かれています。 |
2.予算についての説明の相手は?
企業でも自治体でも、予算をはっきりさせて説明する義務があります。
しかし、企業と自治体では次のような違いがあります。
説明する相手 | 重視する説明内容 | |
企業 | 株主 | 決算 |
自治体 | 住民(議会) | 予算 |
企業は、株主に説明責任がありますが、自治体は住民に説明責任があります。
企業は、決算報告を重視しますが、自治体は事前の予算報告を重視します。
3.簿記方式の違いは?
目的も違うため、会計の視点も違います。
企業 | 複式簿記 |
自治体 | 単式簿記 |
企業は、複式簿記を使用しますが、地方自治体は単式簿記を使用します。
4.出納整理期間という概念
「出納」とは、金銭や物品の出し入れのこととです。自治体には出納整理期間という期間があります。
4月1日から翌年の3月31日までの会計処理を、会計年度終了後の5月31日までに終わらせます。
予算とは、どういう意味なのか
✔︎官公庁における予算の意味は富の再配分の明細であり 「これから使い切る金額の明細」です。 |
ひとつの会計年度に生じる支出は、「全て」細かく予算書に掲載しなければなりません。(地方自治法210条)
たとえどんなにメリットがあったとしても、この予算に載っていない事業を行うことはできません。
逆にどんなにコスパが悪くても、この予算に載っている事業をやめることは原則できません。
一度決定した予算は、全額きちんと使い切ることが重視されます。(憲法86条、財政法11条)
自治体ビジネスにおいては、金額も大事ですが、お金を出すための理由が特に重要です。
予算を決めるのは、誰か
✔︎予算を決めるのは、その自治体の住民です。
実際には、住民が選挙で選んだ都道府県知事・市町村長、議員が集まり「どの事業にどれだけお金を配布するか」を、議会で決めます。
自治体の住民に決定権があるので、予算の使い方がおかしい場合は、訴訟を起こすことができます。
予算の支出においては、使い方が正しい「理由」が重要になります。
予算作りの流れ
予算作りの主な担当は次のとおりです。
予算の提案 | 住民の選挙で選ばれた都道府県知事・市町村長(首長) |
細かな作業 | 自治体の職員 |
最終的な決定 | 住民の選挙で選ばれた議員が集まる議会 |
予算編成方針が都道府県知事・市区町村長から各部局課へ通知されます。
- どんな事業を行うか(ビジョン・ストーリー)
- 今まで続けていた公共事業の見直し
- 予算の上限値
- いろんな部局の担当者が、来年度の概算予算を作成し、どの事業にお金がどのくらいかかるかを計算して提出
- 予算係(自治体内の財務省のような担当部署です)でヒアリングと取りまとめ。
※営業先で出会う、官公庁の担当者が詰められます・・・・かかるお金のちゃんとした理由が言えなければ特に・・・ - 都道府県知事・市町村長が内容を確認して予算案を決定(地方自治法149条2項)
※住民が選挙で選んだ、知事や市町村の長に、予算を作る権限があります。 - 官公庁の行政職員はあくまでもその準備をするだけですので、決定権はありません。
- 議会に提出!
- 予算成立!
このような流れになっています。
歳入(一会計年度の収入)とは
国や自治体などの官公庁では、ひとつの会計年度中の、全ての収入のことを「歳入」と言います。
国税からのお金が約6割、地方税からのお金が約4割です。
歳入(一会計年度の収入)の種類
様々な地方のニーズに応じて、自由に使えます。 |
|
特定財源 |
特定の目的のために徴収されたものです。 |
歳入(一会計年度の収入)の項目
一般財源 | 地方税・地方贈与税・地方特例交付金・地方交付金・地方消費財交付金・ゴルフ場利用税交付金・自動車取得税 |
特定財源 | 分担金・負担金、使用料・手数料、国庫支出金、財産収入、寄付金、繰越金、地方債 |
地方自治体の税金の種類は?
地方自治体の税金は、都道府県で徴収する税金と、市町村で徴収する税金とで違います。
都道府県で徴収される税金 |
都道府県民税、事業税、地方消費税、不動産取得税、道府県たばこ税、ゴルフ場利用税、自動車取得税、経由引取税、自動車税、鉱区税、固定資産税、狩猟税、水利地益税 |
市町村で徴収される税金 | 市町村民税、固定資産税、軽自動車税、市町村たばこ税、鉱産税、特別土地保有税、入湯税、事業所税、都市計画税、水利地益税、共同施設税、宅地開発税 |
歳出(一会計年度の支出)とは
国や自治体などの官公庁では、ひとつの会計年度中の、全ての支出のことを「歳出」と言います。
集められた税金を、どのように再配分するのかについての具体的な内容です。

目的で理解する歳出(一会計年度の支出)
具体的には、次のような目的別の歳出の分け方があります。わかりやすく解説します。
衛生費 | 保健所やゴミ処理、公害対策にかかるお金 |
教育費 | 自治体が運営する小学校・中学校・高校・大学などのお金 |
警察費・消防費 | 地域の治安や消防に関するお金 |
民生費 | 子どもやお年寄り、ハンディキャップのある方々、生活援助が必要な方々の支援のお金 |
労働費 | 労働福祉事業にかかるお金 |
土木費 | 都市計画を作ったり、道路や橋や河川海岸、公営住宅を作ったり維持するお金 |
商工費 | 商工業や観光業を応援するためのお金 |
農林水産業費 | 農業・林業・水産業を応援するためのお金 |
災害復旧費 | 台風や地震などの災害によって壊れた施設を修理するお金 |
公債費 | 自治体の借金の返済に関わるお金 |
総務費 | 事務処理にかかるお金 |
議会費 | 議会を運営するお金 |
予備費 | 緊急用のお金 |
性質で理解する歳出(一会計年度の支出)
「性質別歳出」と呼ばれます。目的別ではなく、その経済的な性質で分けた分類です。
義務的経費 |
コミュニティを維持するために、簡単に変えられない必要経費 具体的には、人件費・生活保護費・公債費など |
投資的経費 |
皆で一層豊かになるために投資する経費 具体的には、道路・橋・公園・学校などの土木建設費、災害復旧費、失業対策事業など |
地方自治体の予算方針を調べるには?
地方自治体の重点目標をチェックしよう
予算は重点目標とされる内容に、特にお金が配分されます。
自治体が特に力を入れている理念に合うものであれば、契約が取りやすくなります。
「予算方針」や「重点施策」は、HPにも掲載されます。
日本全体 | 総務省が大きな方針を発表しています。 具体例でいうと、「Society5.0時代を支える人づくり」「東京一極集中の是正と地域の活性化」「サイバーせキュリティの強化」などの理念です。 |
地方自治体 | 各地方自治体でも、「重点施策」や「重点政策」「予算方針」などが発表されています。都道府県知事や市町村長が新しく当選した時は、選挙時のマニフェストを読んでみると理解が一層深まるかもしれません。 具体例でいうと、東京都「戦略的視点 ~ 7C TOKYO 3つの柱」「東京2020大会を成功に導き、レガシーを創り上げる」「最先端技術を活用し、Society5.0の実現に向けた施策を具体化」などがあります。 |
国の基本方針も自治体に影響
地方自治体も国や世界の一部です。
国や国連等の方針に合った方針で動きます。
「この用語の意味がわからないな」と思った時は、国や国連の資料で調べてみるとわかりやすいかもしれません。
具体例では、持続可能な開発目標(SDGs)などがあります。
まとめ:予算を理解して交渉をスムーズに
自治体ビジネスにおいて、自治体側担当者は「自治体の理念や予算の目的に合っているかな?」と考えています。
なぜなら、本当に決定権があるのは地域住民だからです。
議会で決定した「予算」や「自治体の重点目標・重点政策(施策)」の範囲内でしか、お金を払うことができません。
予算の内容や、自治体が力を入れている理念を理解しておくと、自治体側とのコミュニケーションが取りやすくなり、スムーズに交渉することができます。